2025年04月14日

『西遊記』だけじゃない!中国に伝わる不気味な豚の伝説とは?

「豚」は、イノシシを家畜化した動物であり、人類は古代からその飼育と食用を続けてきた

特に中国は世界最大の養豚国であり、豚肉は日常の食文化に深く根付いている

また、中国の神話や伝承においても豚は重要な存在であり、『西遊記』に登場する「猪八戒」は、最も有名な豚妖怪として広く知られている
このほかにも、中国には多種多様な豚の怪物にまつわる物語が伝えられている

それらの中から代表的なものを紹介し、解説していく


1.并封

并封(へいほう)は、古代中国の妖怪辞典『山海経』に記述されている、異形の豚である

并封は双頭の黒い豚であり、体の前方だけでなく後方(すなわち臀部のあたり)にも頭があるとされる

また并封は、アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899~1986年)の書籍『幻獣辞典』においても言及されている

それによると并封は、「魔法の水の国」に生息する双頭の黒豚とのことだ

その正体は、単なる奇形の豚と考えられている

2.狪狪

狪狪(とうとう)とは、これまた『山海経』にて語られている豚妖怪である

「トートー」と鳴くことから、その名が付けられたとされる

宝石や金が採れる泰山という山に、狪狪は生息していたという
宝石鉱山に棲む生物ゆえか、狪狪の体内からは数多くの宝玉が採れたそうだ

養殖に成功すれば、宝石がガッポガッポと手に入ること間違いなしだ
しかし、この豚が現存しないということは、遠い昔に狩り尽くされてしまったのだろう

なんとも惜しいことである

3.山膏

山膏(さんこう)も『山海経』に登場する怪異である

苦山という山に棲み、その体は炎のように真っ赤だとされる

この山膏、特に好むのは人を罵ることだという
つまり、豚でありながら人間の言葉を自在に操る知能を持つわけだ

中国人には中国語、アメリカ人には英語、日本人には日本語、仏教徒にはサンスクリット語で罵ってくるのだろうか?
もしそうなら、バイリンガルどころの話ではない
驚異的な語学力を持つハイスペックな豚ということになる

海外旅行に行く際には、一匹連れて行けば通訳として重宝するかもしれない

もっとも、こんな化け物が税関を通れるはずもないが

4.猪豚蛇

猪豚蛇(ちょとんだ)とは、その名の通りイノシシと豚とヘビの合成生物である

宋の時代の作家・洪邁(1123~1202年)の著作『夷堅志』にて、以下のようなエピソードが語られている

(意訳・要約)

紹興二十三年(1153年)。
とある軍の部隊が、駐屯地で訓練を行っていた際のことである。
夕暮れ時に、突如として竹藪の中から、奇怪な怪物が飛び出してきた。

その姿は一見ヘビのようであるが、体は毛に覆われており、四足獣のごとき足を持っていた。
怪物は非常に俊敏であり、豚そっくりの鳴き声を発しながら、猛烈な勢いで走り回った。
いかに屈強な兵士たちともいえど、このような怪物は見たことがなく、恐れおののき逃げ回るしかなかった。

そこで部隊の隊長は、建康(現在の南京市)に駐在していた蛇退治の専門家「成俊」のもとへ、使いを走らせた。
ほどなくして成俊は馳せ参じ、怪物を見て一言、

「これは猪豚蛇というヘビだ。噛まれたら即死するので注意しろ」

と、即座にその正体を看破した。

そして成俊が蛇だけを殺す呪術を施すと、猪豚蛇は血の塊と化し、やがて消滅してしまった。

5.江豚

江豚(こうとん)は、長江に生息するとされた、豚に似た怪物である。

江豚は風が吹くと喜び、水面を飛び跳ねるとされている

長江で漁をする船乗りたちは、風の流れを常に注視していたという
なぜなら風が強く吹けば吹くほど、江豚は群れを成して出現し、漁の邪魔になったからである
邪魔なだけならまだしも、時には舟を下から突き上げ、転覆させることもあったというから堪らない

その正体は「スナメリ」というイルカの仲間、あるいは近年絶滅したとされる長江の固有種「ヨウスコウカワイルカ」だと考えられている

6.封豨

封豨(ほうき)は、巨大なイノシシの妖怪である

古代中国の詩集『楚辞』にて、その存在が言及されている

桑林という土地に、封豨は生息していたという
近隣の村を襲っては田畑を荒らし、家畜や人間を食い散らかす、おぞましい怪物として忌み嫌われていたそうだ

このような存在を野放しにすれば、世が乱れ滅ぶことは必至である
そこで時の皇帝の命により、「羿(げい)」という弓の名手が、この怪物の討伐に駆り出された

封豨の皮膚は異常に硬く、普通に矢を射るだけでは歯が立たない
しかし羿は、巧みな技術で封豨の足を矢で穿ち、その動きを封じたという
生け捕りにされた封豨は屠殺・解体されたのち、肉は蒸し料理として皇帝に献上されたそうだ

また、漢の時代の学者・劉安(紀元前179~紀元前122年)の著作『淮南子』には、「封豨修蛇」なる四字熟語が記述されている

これは、狼藉者・乱暴者・侵略者などを指す語句であるという
「修蛇」とは封豨と同じく、羿に退治された邪悪な怪物であり、この二つの悪しき存在の名を組み合わさって、救いがたい悪漢を表す言葉として成立したと考えられている

参考 : 『山海経』『中国の神話伝説』他
文 / 草の実堂編集部

(この記事は草の実堂の記事で作りました)

ブタの妖怪では西遊記の猪八戒が有名ですね

食にどん欲のイメージがあります

あと「きたない」イメージもありますが、ブタは「キレイ好き」とも



山海経 (平凡社ライブラリー) 文庫

中国の妖怪・怪獣・神などについて書かれた書籍
解説や注釈つき
posted by june at 12:14| Comment(0) | ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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