■情報過多の時代を上手に生き抜く
飛行機は自力で飛ぶことができるが、グライダーは自力で飛ぶことができない
人間の能力もこの2つに分けることができる
受動的に知識を得る「グライダー能力」と、自分で物事を発明・発見する「飛行機能力」だ
知識を詰め込むグライダー能力だけが優秀でも、所詮コンピュータには負けてしまう
AIの誕生によって人間の仕事が奪われようとしている今だからこそ、考えることの本質に迫り、独自の思考を生む術を教えてくれるのが本書だ
物事を考えるのには、最初にテーマの設定が必要だ
文学の研究ならば、まず作品を読む
読んでいくと、わからないところ、違和感を抱くところなどが出てくる
これを書き抜く
繰り返し心打たれるところや、わからない箇所が再三現れたら要注意
こうした部分が「素材」になる
ただ、素材だけでは足りない
アイデア、ヒントがほしい
それらはビール醸造でいうところの「醱酵素」になる
そして「麦」に当たる先の素材と一緒に“寝かせる”ことで、化学反応が進行し、「おいしいビール=面白いテーマ」が生まれる
寝かせることほど、思考法の整理法で大切なものはない
英語には「一晩寝て考える」という成句がある
また中国では、文章をつくるときに優れた考えがよく浮かぶ場所として、「馬上」「枕上」「厠上」の「三上」があるとされてきた
枕上は、寝て朝目覚めれば、よい考えが浮かぶことを指す
一晩中ずっと考え込むよりも、一晩寝て朝起きればよい考えが浮かぶものである
テーマが決まれば、情報を集めて「メタ」化していこう
情報には段階がある
たとえば「○○山は南側の斜面が砂走(すなばし)りになっている」というように、自然を直接表現したものは「第1次情報」だ
対して「この地方の山は△△火山帯に属している」といった表現は「第2次情報」になり、第1次情報を踏まえて、より高度の抽象を行ったメタ情報だ
思考や知識についても、メタ化の過程があてはまる
具体的、即物的な思考や知識は第1次情報だ
その同種を集め、整理し、相互に関連づけると第2次情報になる
それをさらに繰り返すと、第3次情報になる
思考の整理とは、低次の思考を抽象のはしごを登って、メタ化していくことだ
その際にも、醱酵が役に立つ
寝かせて、化学的変化が起こるのを待ち、思考を純化させていく
多くの人にとって、第1次情報の代表はニュースだ
新聞を読んでいて、「これは」と思うものに出くわしたらスクラップする
方法はスクラップブックに貼るのと、袋に区分けするのと2つある
前者はテーマがおおまかであれば便利だが、複数になると不便で、後者のほうがいい
袋の中身がたまってきたら、資料が揃ってきた証拠
そこで改めて目を通そう
第1次情報を本に求める場合、関連書籍を集められるだけ集めて、積んでおく
そして、片っ端から読んでいく
興味のあることは、すべて頭の中へ記録する
関心事項は、そう簡単に忘れないので安心しよう
■3段階で情報をメタ化する
第1次情報から何か考えが浮かんだら、やはり寝かせて、その際、せっかくの考えが消えないように紙にメモしておく
往々にして妙案はふと浮かんでくることが多い
手帖を持ち歩いておき、すぐに書き留めるのがいい
そして手帖を適宜見返し、「これは面白い」というものなら脈ありだ
別なところでもう少し寝心地をよくしてやろう
そこで登場するのがノートだ
冒頭に見出しを書き、手帖の内容を箇条書きする
ノートに書き写した日付を入れ、手帖に整理番号が振ってあれば記入し、関連する新聞や雑誌の切り抜きがあれば、貼っておく
手帖からノートへ移すことは、まさに移植である
コンテクストが変われば、考えは新しい意味を帯びるようになる
さらに、ノートの中で脈のありそうな考えを、もう一度、他のノートに移す
これが「メタ・ノート」だ
メタ・ノートでは、一つのアイデアに見開き2ページを使う
冒頭にテーマの題目をつけ、前のノートにあったことを整理して、箇条書き風に並べる
移した日付も忘れずに記入
考えが醱酵してきたときに、どれくらい日時が経過しているかがわかる
メタ・ノートに入れた考えは、自分にとってかなり重要なもので、長期にわたって関心事になるものばかりだ
でも、しばらくは頭の中から切り離して醱酵させよう
外山氏は、第1段階のノートとメタ・ノートを合わせて53冊持つという
それらを眺めて「我が思考、すべてこの中にあり」と思うのは気持ちがいい、と本書で綴っている
考えをまとめる段になったら、とにかく書いてみよう
材料はありすぎるくらいたっぷりあり、どうまとめたらよいか、途方にくれてしまうかもしれない
でも、大論文を書こうなどと気負わず、まずは気軽に書いてみよう
終わりまで行ったら、そこで全体を読み返し、推敲作業だ
第1稿が満身創痍になったら、新しい考えを取り込みながら第2稿をつくる
そして、改めて推敲へ
音読をすれば、考えの乱れているところは、すぐにわかる
声も思考の整理に役立つのだ
これらを実践しているうちに、グライダー型人間から飛行機型人間へ転身していることに気がつくだろう
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外山 滋比古(とやま・しげひこ)
1923年生まれ。文学博士、評論家、エッセイスト。東京文理科大学英文科卒業。『英語青年』編集長を経て、東京教育大学、お茶の水女子大学などで教鞭を執る。専攻の英文学に始まり、テクスト、レトリック、エディターシップ、思考、日本語論の分野で、独創的な仕事を続け、2020年に死去。本書は1983年の刊行から41年読み続けられている「知のバイブル」で、全国大学生活協同組合連合会の450店舗での2022年文庫ベストセラー第1位に輝いた。
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※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです
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外山 滋比古(とやま・しげひこ)
お茶の水女子大学名誉教授
1923年、愛知県生まれ
東京文理科大学英文科卒業
雑誌『英語青年』編集、東京教育大学助教授、お茶の水女子大学教授、昭和女子大学教授を歴任
文学博士英
文学のみならず、思考、日本語論などさまざまな分野で創造的な仕事を続けた
著書には、およそ40年にわたりベストセラーとして読み継がれている『思考の整理学』(筑摩書房)をはじめ、『知的創造のヒント』(同社)、『日本語の論理』(中央公論新社)など多数
『乱読のセレンディピティ』『老いの整理学』(いずれも扶桑社)は、多くの知の探究者に支持されている
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(この記事は、プレジデントオンラインの記事で作りました)
情報過多時代の現代だからこそ「飛行機能力」が重要だ
情報を検索などするならコンピューターの方が人間より優秀だ
AI時代の現代はAIの方が「グライダー能力」は優秀だ
自分で考え、生み出す、発見することが「生き抜く」道だ
思考の整理学 (ちくま文庫) 文庫
情報過多、AI時代の現在だからこそ本書の考え方が必要だ
本書の手順に従い実践すれば、「飛行機能力」が身につく
2024年09月24日
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