カリフォルニア大学バークレー校教授で理論物理学者の野村泰紀さんは「アインシュタインの発表した理論は2つある。そのうち特殊相対性理論は、特殊な場合にのみ当てはまる理論である。一方で、一般相対性理論は、特殊相対性理論をさらに発展させた理論で、その名の通り、一般的なあらゆる場合に当てはまる理論だ」という――
※本稿は、野村泰紀『なぜ重力は存在するのか』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです
■「相対性理論」には2つある
アインシュタインが、1905年6月に発表したのが、「特殊相対性理論」です
「相対性理論」には、「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」の2つがありますが、最初に発表されたのが、この特殊相対性理論です
1905年6月当時、光量子仮説、ブラウン運動の理論により、アインシュタインはすでに一部の物理学者の間でその名を知られる存在になっていました
しかしながら、特殊相対性理論に対する物理学者の評価は、発表当初は大きく分かれました
なぜなら、あまりにも常識はずれの突飛な内容だったからです
しかし、量子論の生みの親とされるドイツの物理学マックス・プランクや、チューリッヒ工科大学の数学者で、アインシュタインの恩師のヘルマン・ミンコフスキーなど高く評価する科学者も少なくありませんでした
その後、特殊相対性理論に対する評価はどんどん高まっていき、アインシュタインは、チューリッヒ工科大学の教授の職に就くことができました
また、1913年には、母国ドイツのベルリン大学の教授になりました
そして、特殊相対性理論の発表から10年の歳月を経て、一般相対性理論を完成させ、1915年から1916年にかけて発表したのです
■特殊相対性理論が当てはまる特殊なケース
まずは、特殊相対性理論から紹介していきましょう
そもそも特殊相対性理論の「特殊」とは、特殊な場合にのみ当てはまる理論という意味です
一方、一般相対性理論は、特殊相対性理論をさらに発展させた理論であり、その名の通り、一般的なあらゆる場合に当てはまる理論です
では、特殊相対性理論が当てはまる特殊な場合とは、どのような場合なのでしょうか
結論から言うと、物理現象を見る観測者が、「等速直線運動」をしている場合です
等速直線運動とは、「同じ速さ(等速)で、まっすぐに進む(直線)運動」のことです
つまり、速さも向きも変わらないシンプルな運動のことです
また、静止している場合も、ゼロという同じ速さで直進していると考えられるため、等速直線運動に含まれます
逆に、速度が変化したり、進む方向が変わったりする運動は含まれません
ガリレオとデカルトによって発見された、「慣性の法則」があります
これは、「物体は外から力を加えない限り、もともと行っていた等速直線運動を続ける」というふうに表すことができます
たとえば、摩擦力も空気抵抗も発生しない宇宙で、ロケットがエンジンを噴かさなくても、いつまでも一定の速度で飛び続けられるのは、慣性の法則のおかげです
それに対し、物体に力を加えると、速さが増えたり進む方向が変わったりします
このような運動を、「加速度運動」といいます
ここで覚えておいてほしいポイントは、特殊相対性理論は、観測者が等速直線運動をしている場合にのみ使える理論であり、一般相対性理論は、加速度運動をしている場合にも使える理論であるということです
また、一般相対性理論は、特殊相対性理論では扱うことのできない、重力を扱うことのできる理論でもあります
■相対性とは「どちらも正しい」という意味
では、相対性理論の「相対性」とはどういう意味でしょうか
相対性という言葉を辞書で引くと、「他との関係の中にある(相対)という性質のこと」と出ます
相対性の反対語は、「絶対性」です
それに対し、相対性理論における相対性とは、「どちらも平等に価値がある」「どちらも正しい」といった意味であると解釈すると、理解しやすくなるでしょう
物理学の世界に、「相対性」という概念を最初に持ち込んだのは、ガリレオでした
「ガリレオの相対性原理」が発表されたのは、アインシュタインよりも300年以上も前のことです
ここで、再度、ガリレオの相対性原理について考えてみましょう
ガリレオが地動説を唱えたとき、次のように反論する人がいました
「地動説が本当ならば、仮に塔の上から石を落とした場合、石が落下している間にも地球は動いていることになるので、石は塔の真下ではなく、少しずれた場所に落ちるはずだ。なぜ、塔の真下に落ちるのか説明しろ」
それに対し、ガリレオは次のように説明しました
「たとえば、一定の速度で、一定の方向に向かって走っている船に乗っている人がいるとする。その人がマストの上から石を落としても、塔の上から石を落とした場合と同じことが起こる。
つまり、船に乗っている人にとって、石はマストの真下に落ちているように見える。この船を地球に置き換えて考えればいい。地上の人にとっては、石は塔の真下に落ちているように見えるわけだ」
それにしても、船が動いているにもかかわらず、石がマストの真下に落ちるのはなぜでしょうか
それは、石も船と一緒に進んでいるからです慣性の法則により、石も船と同じ速度で前に向かって進みながら、落ちていっているのです
つまり、私たちのいる場所が動いていても止まっていても、それが等速度である限り、そこで起こる物体の運動や法則は、私たちにとってまったく同じものに見えるということです
これが、ガリレオの相対性原理です
ニュートンは、この「速度に、絶対的というものはない」というガリレオの相対性原理を土台にして、ニュートン力学を構築したのです
■光の速度に関する重大な発見
ところが、そこに絶対的な等速直線運動をする物体が突如現れました
それが、光でした
電磁気学の研究が進む中、マクスウェルが構築したマクスウェル方程式を使って計算すると、光の速度(光速)は、秒速約30万キロメートルであることが導き出されてしまったのです
そのことの何が問題だったのかについて、詳しく解説していきましょう
ガリレオの相対性原理に基づくニュートン力学では、「速度合成の法則」というものが成り立ちます
これは、自分から見た相手の速度、つまり、相対的な速度が、自分の速度と相手の速度の足し算・引き算によって計算できるという法則です
たとえば、同じ時速250キロメートルで走っている2つの新幹線同士がすれ違うとします
このとき、新幹線に乗っている乗客はそれぞれ、すれ違った方の新幹線が時速500キロメートルで走っているかのように見えます
速度合成の法則により、「250+250=500」だからです
逆に、2つの新幹線が同じ時速2650キロメートルで並行して走っている場合、新幹線に乗っている乗客はそれぞれ、並行して走っている新幹線が止まっているかのように見えます
速度合成の法則により、「250-250=0」だからです
ところが、もし光の速度(光速)が、常にマクスウェル方程式から得られる値だとした場合、この速度合成の法則が当てはまらなくなってしまうのです
光の速度(光速)は、光を観測する人が動いていても止まっていても、常に一定の秒速約30万キロメートルと観測されるということになるからです
■「光速は常に一定の秒速約30万キロメートル」
実際、1887年に、アメリカの物理学者アルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーが、のちに「マイケルソン・モーリーの実験」と呼ばれる重要な実験を行いました
これは、音が空気を媒質として波(音波)として伝わるように、光も「エーテル」という物質を媒質として波(電磁波)として伝わると仮定したとき、地球がエーテルに対してどのように運動しているかを検証するものでした
もしエーテルが、太陽に対して静止していたとすると、地球は秒速約30キロメートルの速度で太陽の周りを公転しているので、公転方向と垂直である南北方向に進む光に比べて、東西方向に進む光は公転速度の分だけ速度が違っているはずです
ところが、マイケルソン・モーリーの実験では、光の速度はどちらもまったく変わらなかったのです
これは、光には、速度合成の法則が当てはまらないことを表しています
この「観測者によらず、止まっている人から見ても動いている人から見ても、光の速度(光速)は常に一定の秒速約30万キロメートルである」という原理は、「光速不変の原理」と呼ばれています
マクスウェル方程式から導き出された光速の理論値は正しかったことが、マイケルソン・モーリーの実験によって実証されたのです
マイケルソン・モーリーの実験は、光速度不変の原理の出発点となりました
マイケルソンは、光学の研究に対する功績が認められ、アメリカ人初のノーベル物理学賞を受賞しています
とはいえ、これでは、長年信じられてきたガリレオの相対性原理およびニュートン力学に重大な欠陥が見つかったことになります
このことは、物理学における大問題となりました
しかし、この問題はアインシュタインが構築した特殊相対性理論により解決することになります
(この記事は、プレジデント オンラインの記事で作りました)
アルベルト・アインシュタインは、相対性理論などから「光速不変の法則」で物理学の問題を解決しました
現代物理学の2大理論といえば、相対性理論と量子(力学)論ですが、量子(力学)論が多くの研究者によって構築されたのに対し、相対性理論は、アインシュタインほぼ1人で構築されました
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