2024年04月07日

なんと、ヒトにもある・・・!生物進化における超重要」な「頭骨にあいた穴」

長い長い進化の中で、私たちの祖先は、何を得て、何を失い、何と別れてきたのかーー

約46億年と言われる地球の歴史において、生命が誕生は、遅くとも約39億5000万年前と言われています
そして、最初の人類が登場するのは、約700万年前
長い地球の歴史から見れば、“ごく最近”です

しかし、そのホモ・サピエンスも、突如として誕生したわけではありません
初期生命から現在へと連綿と続く進化の果てに、生まれたのです
私たち「ホモ・サピエンス」という一つの種に絞って、その歴史をたどってみたら、どのような道程が見えてくるでしょうか
そんな道のりを、【70の道標(みちしるべ)】に注目して紡いだ、壮大な物語です

この『サピエンス前史』から、70の道標から、とくに注目したい「読みどころ」をご紹介していきましょう
頭骨の側頭部に見られる単弓類の特徴的な構造の発生から、残された骨から生物進化を探究していくエピソードや新たな仮説をご紹介しましょう

*本記事は、『サピエンス前史 脊椎動物から人類に至る5億年の物語』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです


頭の骨に開いた「窓」

哺乳類とその近縁のグループで構成される「単弓類」
その最初期の生物が石炭紀後期の始まった頃に現れていた
そして、いくつかの候補がある最初期の単弓類の一つに、カナダで化石が発見されている「アサフェステラ(Asphestera)」がある

このアサフェステラの化石として、大きさ数センチメートルという小さな頭骨の一部が知られている
カールトン大学(カナダ)のアルジャン・マンたちが2020年に発表した論文によると、この頭骨の一部に、単弓類に共通する特徴ーーつまり、もちろん、これを読んでいるあなたにもある特徴ーーが確認できるとのことだ

その特徴の一つが、「側頭窓(そくとうそう)」である
【第12の特徴】だ

頭骨の左右それぞれの側面に穴(窓)が開いている
この穴(窓)を、「側頭窓」という
数は、左右にそれぞれ一つずつ 
側頭窓には顎の筋肉が収納され、その先で筋肉が骨に付着する

これにより、力強い咀嚼(そしゃく)が可能となっている
ちなみに、恐竜類やその他の爬虫類の多くには、左右それぞれに側頭窓が二つある
彼らは「双弓類」と呼ばれている

「一つの側頭窓」は、単弓類に共通する特徴だ
もちろん、あなたにも筆者にもある特徴だ

「え? 私の側頭部に穴なんて開いていないぞ」と思われた読者もいるかもしれない
いやいや、開いているのである
いわゆる「骨」の向こう側だ
私たちの側頭窓は、骨の内側に上下方向に開いている
この穴に顎の筋肉が通っているのだ

骨の少し上、こめかみのあたりに指を当てて、顎をアグアグと動かしてみよう
側頭窓を通った筋肉の動きを感じられるはずだ

特徴的な胸椎
閑話休題

アサフェステラの化石は小さな部分化石だけれども、近縁種の分析から、おそらくその姿はトカゲに似ていたとみられている
すなわち、全体的に小さくて、細くて、四肢はからだの側方へ向かって伸び、長い尾があった

トカゲに似ている、つまり、竜弓類と似た姿から、初期の単弓類はスタートした

しかし、進化を重ねるごとに、両者の“差”は広がっていく

2018年にハーバード大学(アメリカ)のK・E・ジョーンズたちが発表した研究によると、その差は、たとえば、“脊椎の分化”に現れていくという
単弓類以外の有羊膜類と比較すると、単弓類は“脊椎の場所によるちがい”が進化するほどに顕著になるというのである

すなわち頸椎、胸椎、腰椎の形の差が大きくなっていくのだ
ジョーンズたちは、とりわけ胸椎の変化が先行し、あわせて前肢の機能が発達していったことを指摘している
このことが、のちの哺乳類の多様化に一役買ったらしい

これを【第13の特徴】としておこう
ただし、この分化は突発的なものではなく、時間をかけて進んでいくものであると、ご承知されたい

体のわりに頭が小さい・・・独特の「骨構造」

単弓類は、急速に多様化を進めていった

その中で、「最も原始的」と言われるグループの一つが、「カセア類」である
代表的な種類は、アメリカから化石が発見されている「コティロリンクス(Cotylorhynchus)」だ

コティロリンクスは、アサフェステラの生きていた時代から、さらに数千万年が経過したペルム紀に生きていた植物食の動物である
がっしりとした四肢をもち、でっぷりと膨らんだ胴体が特徴的で、全長は約3.7メートル、体重約330キログラムというなかなかの巨体であるにもかかわらず、頭部は長さ・幅ともに20センチメートルほどしかない

「ラブラドール・レトリバー」というイヌの品種がある
ラブラドール・レトリバーの頭部のサイズがコティロリンクスとほぼ同等だ
ただし、ラブラドール・レトリバーの全長は約1.4メートル、体重は約24キログラムである
つまり、コティロリンクスは、ラブラドール・レトリバーとほぼ同じサイズの頭部でありながらも、全長はその2.5倍、体重は13倍以上もあった
コティロリンクスの頭部の小ささが伝わるだろうか

2016年、ライン・フリードリヒ・ヴィルヘルム大学ボン(ドイツ)のマルクス・ランバーツたちは、コティロリンクスの骨組織が、水棲哺乳類(すいせい・ほにゅうるい)のそれとよく似ていることを明らかにした
そして、この骨構造に注目し、コティロリンクスが水棲種だった可能性を指摘している

注目すべきは、この考察の先である

生態と環境の発想を重ねて見えてきた可能性

まず、コティロリンクスやその近縁種は、肺呼吸だったはずである
肺自体が化石に残っていたわけではない
しかし、上陸に成功した段階で、四足動物の始祖は肺呼吸を獲得していたことは確実だ(そうでなければ、空気中で呼吸をすることができない)
クペロたちが2022年に発表した仮説が正しければ、肺は二つあった

次に、コティロリンクスやその近縁種は、植物食者だった
すなわち、被捕食者である
端的に言えば、「襲われる側」だ

水棲生活を行い、肺呼吸をする被捕食者にとって、呼吸のタイミングは“無防備の時間”でもある
水辺に待待ち伏せする機した捕食者は、呼吸をするために水から顔を出した“無防備の時間”にコティロリンクスを狩るかもしれない

こうした発想を連ねていって、ランバーツたちはコティロリンクスやその近縁種には、「横隔膜」があったとみている

横隔膜は、私たちヒトにもある
胸腔(きょうくう)と腹部とを仕切る膜状の筋肉で、胸骨、肋骨、椎骨に付着している
私たちはこの筋肉を動かすことにより、効率的な呼吸を行っている
横隔膜が腰の方向へ動けば、胸腔が広がり、肺に空気が入る
横隔膜が首の方向へ動けば、胸腔が狭まり、肺から空気が押し出される、という具合だ
横隔膜があるおかげで、短時間で大量の空気の入れ替えが可能となっている

ランバーツたちによれば、コティロリンクスやその近縁種も横隔膜を備えており、効率的な呼吸を行うことで水面から顔を出す時間を最小限に抑え、捕食者に襲われる“無防備の時間”を可能な限り短くしていたのではないか、と言う

ちなみに、現生種を見る限り、横隔膜は哺乳類固有の特徴であり、他の脊椎動物グループは横隔膜をもっていない

待たれる今後の研究

ランバーツたちの指摘が正しいとすれば、横隔膜の獲得は、単弓類の進化の歴史のごく初期に行われていたことになる
これは、“可能性の話”に近いのかもしれないが、ここでは【第14の特徴】としておこう
横隔膜による効率的な肺呼吸は、水棲種ならずとも、単弓類を優位に立たせることに一役買ったことだろう
何にせよ、横隔膜があるということは、肺呼吸をする動物にとって都合がよい

ただし、「コティロリンクスやその近縁種に横隔膜があった」というランバーツたちの見解は、あくまでも「骨の構造が水棲哺乳類と似ている」という観察結果を端緒とした考察であり、“横隔膜の化石”が確認されているわけではないので注意が必要だ

そして、「骨の構造が水棲哺乳類と似ている」という観察結果そのものは否定されていないものの、「コティロリンクスが水棲種だった可能性」を否定する研究が発表されている
水棲種の可能性が否定されれば、「コティロリンクスやその近縁種に横隔膜があった」という論理展開が成立しなくなる

横隔膜そのものは化石に残っていないけれども、その存在を示唆する“証拠”として、かねてより「肋骨の数」が指摘されている
横隔膜は、胸骨、肋骨、椎骨に付着する筋肉だ
現生の哺乳類では、過去の単弓類と比較すると後方の肋骨の数が少なくなっており、横隔膜を形成するスペースがある
つまり、後方の肋骨が少なくなることが、横隔膜の存在の「間接的な証拠」となる

ジョーンズたちの2018年の研究でも示唆されている脊椎の分化にも関係しているといえるだろう
初期の単弓類にはこうした特徴がない
肋骨の減少は、単弓類が進化の過程で獲得する特徴だ
そして、ランバーツたちの論理展開ではなく、この「間接的な証拠」をもつ単弓類が確認されるのは、コティロリンクスから見て、まだ数千万年以上のちの話となる
このあたりは、今後の研究の展開に注意していく必要があるだろう

(この記事は、現代ビジネスの記事で作りました)

ヒトの進化の痕跡となる頭骨の穴について解説しました

この他哺乳類以前の生物が体内で熱を作っていたかもしれない痕跡やヒトのからだの一番古い器官(最初に備えた器官)の話、生物から海から陸へ進出する際の呼吸問題や肺の獲得の話などホモサピエンス登場以前のいわば「ホモサピエンス前史」の進化の歴史などを以下の書籍は解説


サピエンス前史 脊椎動物の進化から人類に至る5億年の物語 (ブルーバックス) 新書

5億年前に脊椎動物が誕生したという
そこから人類に至るまでの進化の歴史とロマン、壮大のストーリーを解説
posted by june at 13:59| Comment(0) | ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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