2023年12月26日

地球へ最後に衝突した80万年前の巨大隕石、謎だったクレーターの位置を特定

ラオス南部のボーラウェン高原、「隕石そのものの破片も見つかるかもしれません」と研究者、異論も

2011年、地質学者のケリー・シー氏は、ベトナムのホーチミン市にある小さな宝石店で、2個の「テクタイト」と呼ばれる黒い物体に目を留めた
テクタイトとは天然ガラスの一種で、かつて地表の砂地に隕石が衝突したときに、熱で溶解して吹き飛ばされた石や砂が空中で冷え固まり、地上に降り注いだものと考えられている

シー氏が目にしたテクタイトは、約80万年前に隕石が衝突してできたものであり、中国から南極まで、地球表面のおよそ20%に相当する広い範囲に分布している
このときの衝突は、直径数百メートル以上の天体による大規模な衝突としては地球史上で最も新しい
しかし、その隕石がどこに衝突したのかはわかっていなかった

その後、シー氏は科学文献や衛星画像を調べ上げ、現地調査も行った結果、隕石はラオス南部のボーラウェン高原に衝突したのではと考えるようになった
このときに巨大なクレーターが形成されたものの、その後の火山噴火でできた広大な溶岩原に覆い隠され、場所がわからなくなっていたのだろうという
氏による最新の研究成果は、2023年12月4日付で学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された

現在のボーラウェン高原は、高さ約90メートルの見事な滝と、コーヒーや茶の農園が数多くあることで知られている
だが論文によると、ラオス南部とタイ東部の低地からボーラウェン高原までの地下には、隕石の衝突で放出された物質が積もった「イジェクタ層」と呼ばれる層があるという
しかも、この層は高原の中心部に近づけば近づくほど厚くなり、最も厚い中心付近では9メートルに及ぶ

イジェクタ層の底の方にある小石や岩石は、巨大な衝突によって土地がえぐられた岩屑だろうと、シー氏は考えている
テクタイトは、この小石や岩石の層の上部付近から見つかり、その上をさらに分厚い灰の層が覆っていた
これは、隕石の衝突で舞い上がった巨大な噴煙が後に降り積もったものと考えられる

同じような重なりを持った地層は、ボーラウェン高原とその周囲約500キロ以内の数百カ所で発見されており、高原の中心に向かって層が厚くなっていくパターンを示していた
シー氏は、ボーラウェン高原に隕石が衝突したことは間違いないと確信した

「クレーターがあった場所からのものと考えられる粗い石の堆積層が、高原の中心に近づくほど分厚くなり、石はますます粗くなっていきます。ほかに説明のつけようがありません」

シー氏の説に、すべての科学者が納得しているわけではない
オーストラリア、パースにあるカーティン大学の地質年代学者フレッド・ジョーダン氏は、シー氏の説は「十分ありうる」としながらも、証拠は間接的でしかないため、確実ではないと指摘する
また、東南アジアにある火山活動が活発な地域の多くにも、衝突でテクタイトが形成しえた砂地があるという

隕石の衝突でできた天然ガラス
シー氏が宝石店で目にしたようなテクタイトは、隕石の衝突によって形成される
そのため、衝突クレーターが見つからなくても、テクタイトが広く分布する地域は、隕石が衝突したことを知る手がかりとなる

地球上には4つのテクタイト分布域がある
そのうちの1つがオーストラリアと東南アジアのほぼ全域に広がっており、4つのなかでは最も新しい
ジョーダン氏は2019年に学術誌「Meteoritics&Planetary Science」に発表した論文で、この分布域で見つかったテクタイトの年代をより正確に分析し、隕石の衝突時期をおよそ78万8000年前と推定した
また、これらのテクタイトが最高で約4000℃の熱で生成されたことも示した

「動物たちは吹き飛ばされ、蒸発してしまったと思います」とシー氏は言う
実際、タイの地質学者だった故サンガルド・ブノパス氏は、化石化した森林や化石発掘現場から、衝突による大規模な森林火災、大洪水、局所絶滅、動物の大量死を示す証拠を発見し、論文を発表している

テクタイトは、この分布域で見つかっていない衝突クレーターについての手がかりも与えてくれる
2007年、インド国立海洋学研究所の科学者シャム・プラサド氏は、テクタイトがこれだけ広がるのにどれほどの衝撃が必要なのかをモデル化し、クレーターの直径を33~120キロの間と推定した
しかし、その後の分析では、この範囲のなかでも小さい方の数字に近いだろうということが示された

ドイツ、ハイデルベルク大学の地球化学者であるゲルハルト・シュミット氏も、プラサド氏の新しい数値に近い計算結果を1993年に導き出している
シュミット氏は、イリジウム濃度の測定を基に、15億トンの隕石が地球に衝突し、直径15~19キロのクレーターが形成されたと推測した

クレーターはどこに
隕石が衝突したと考えられている場所は、他にもある
例えば、東南アジア最大の淡水湖であるトンレ・サップ湖がある地域では、ボーラウェン高原のものよりも大きなテクタイトが見つかっており、その数も多い

しかしシー氏は、隕石衝突の重要な証拠のいくつかは目に見えないところに隠されていると考える
2019年に「PNAS」に発表した論文でシー氏は、ボーラウェン高原が隕石の衝突よりも後にできた溶岩原で覆われていることを明らかにした

溶岩は、広いところで幅100キロ、深さは場所によって300メートルにも及び、衝突クレーターを覆い隠すには十分な広さがある
溶岩の年代を測定したところ、隕石衝突よりもはるかに古い1600万年前のものから、3万年前のものまであった
テクタイトに砂だけでなく火山物質の痕跡も含まれていたのは、衝突前にあった溶岩のせいであり、衝突でできたクレーターは、その後に起こった別の火山噴火によって溶岩に覆われたのだろうとシー氏は主張する

シー氏の2019年の論文には、懐疑的な見方をする専門家もいた
チェコ科学アカデミーの地球化学者イジー・ミゼラ氏は、ボーラウェンの溶岩にはオーストラリアとアジアに分布するテクタイトに見られる化学的な特徴がないと主張し、両者の関連性を疑問視していた
それなのに今回新しく発表された論文は、隕石衝突でできた堆積物の起源について憶測を書いているとミゼラ氏は批判する

一方で、英サウサンプトン大学の河川地質学者ポール・カーリング氏は、シー氏の論文を支持し、テクタイトが豊富に含まれたタイ北東部の奇妙な地層を理解するうえで役に立つとしている

2022年8月30日付で学術誌「Meteoritics&Planetary Science」に発表された論文で、カーリング氏と千葉工業大学地球学研究センターの多田賢弘氏のチームは、タイにある露岩を調査して、3層からなるイジェクタ層を明らかにした
最も下には衝突時の爆風で元の地面が作り替えられてできた層があり、次は砂利やテクタイトなどの粗い降下物の層が、その上には細かい降下物が堆積してできた層がある

また、タイの3つの層にはすべて、衝撃石英と呼ばれる鉱物が含まれていた
これは、有名な衝突クレーターであるバリンジャー・クレーターやチクシュルーブ・クレーターなどの内部でも見つかっている
「衝撃石英は、衝撃波を受けた石英の粒子で、その痕跡が亀裂や羽のような特徴的な模様として残されています」と多田氏は言う
これもまた、3つの層が大規模な隕石の衝突によって形成されたことを示す証拠だ

この論文は1カ所だけを対象にした調査だが、カーリング氏によればその後、タイ全域、ラオス南部、ベトナム、カンボジア北部でも同様のイジェクタ層を含む地層が見つかったという
また、この現地調査から、ラオス南部の方に向かって層の厚さが増していることも示され、ボーラウェン高原が衝突地点であるというシー氏の主張がここでも裏付けられていると、カーリング氏は語っている

一方、ジョーダン氏は、クレーターがあると推定される場所を実際に掘ってみるまで決定的な証拠は得られないと指摘する
カーリング氏は、200メートルほど掘れば、大規模な衝突の痕跡が見つかるのではないかと考えている
「隕石そのものの破片も見つかるかもしれません」

それもまた、宝石店に飾られることになるのだろうか

(この記事は、NATIONAL GEOGRAPHICの記事で作りました)

地球へ最後に衝突した80万年前の巨大隕石、謎だったクレーターの位置を特定との発表

しかし、この発表には賛否両論がある

地球へ隕石は何度か衝突しており、そのたびに異変が起きている


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地球への隕石衝突は何度かあり、地球に大異変を起こしている
太陽系誕生や生命の起源とも関係している
隕石衝突によって恐竜が絶滅したとも・・・
以前は氷河期の引き金といわれましたが、全くの無関係とはいえませんが現在はあまり関係ないといわれています
posted by june at 12:44| Comment(0) | ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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