では、なぜ人間だけが老いるのだろうか
細胞老化の分子機構に関する研究を専門とする東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授に話を聞いた
──前作の『生物はなぜ死ぬのか』から2年ほどで新作を執筆されましたが、どういう経緯で執筆に臨まれたのでしょうか
前作では、生物学的な死の意味についての私の考えを書きました
つまり、生物はなぜ死ぬのかではなく、死ぬという性質を持つものだけが進化することができて、いまでも存在する、だから死は必然的なものですということでした
一方で、「じゃあ、歳を取ったらあとは死ぬだけなのか」というご感想もいただきました
それは私の本意ではなく、生物学的に死には意味があるけれど、「歳を取ることにも生物学的に大切な意味があり、ただ単に死に至るための過程ではない」「死にも、老化にも意味がある」ということをお伝えしたかったのが一番の動機です
──新作『なぜヒトだけが老いるのか』というタイトルを見るまで、私は人だけが老いるとは思っていませんでした
それは飼い犬が老いて衰えていくところを見ていたからなんですが、飼い犬が老いるのは野生ではないからですよね
なぜ生物のなかで人間だけが老いるようになったのでしょう
人に飼われている動物の多くは老います
犬も猫も動物園の動物たちも同様ですね
けれど、それらの動物の老いと人の老いは決定的に違います
飼育されている動物の老いは、どちらかというと消極的な老いで、言ってみれば死ねなくなっているんです
たとえば、野生の犬といえるオオカミの死に方はぴんぴんころりで、老いたオオカミはほぼいないです
野生の猫についても同じで、老いたイリオモテヤマネコはいない
動物園にいる動物も、野生の状態では老いた動物というのは原則いないんです
なぜなら、老いると動きが悪くなるので、食べられるか、あるいは食べることができなくなって生きていけないんですね
つまり、老いという期間が進化的に選択されて存在するわけではなく、ただ死ねなくなっているんです
人はそうではありません
進化の過程で、積極的に老いが必要だったから存在するわけです
老いた人がコミュニティにいるほうが、生存するうえで有意義なことがあったんですね
人が老いるようになった理由
──書籍では、その要因の一つとして「おばあちゃん仮説」が挙げられていました
おばあちゃん仮説は有名な仮説です
人の子育てはとても大変ですが、おばあちゃんがいると助けてくれるから子育てが楽になって、その家は子だくさんになる
おばあちゃんとおじいちゃんがいる家庭は栄えるので、長生きの遺伝子が拡がっていき、だんだん長寿になる
わかりやすい説ですね
それは要因の一つで、おそらく人が老いるようになったのは、他にもたくさん理由があったはずです
概して言うならば、老いた人が世の中の役に立ったのです
(この記事は、COURRiER JAPONの記事で作りました)
野生の動物にも老いはなくはないが、老い=死なので老いはあまり見ない
人間は科学・医学などの進歩で老いを全うできる
老いにも「意味」があるから老いがある
老人にも「存在意義」がある
人間が不老不死をするためではなく、健康寿命を寿命に近づける
このことを多くの研究者が考えている
生物はなぜ死ぬのか (講談社現代新書) 新書
生物はなぜ死ぬのかを考える
なぜヒトだけが老いるのか (講談社現代新書) 新書
なぜヒトだけ老いるのか
老いには意味があった
老いの意味を考えることは生きる意味を考えること