生態は夜行性で、「昼の樹液場ではオオスズメバチが最強、夜の樹液場ではカブトムシが最強」といわれてきたが、2022年、そんな常識を覆すような発見があった
小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」(朝日新聞出版)4月号からお届けする
■早朝のクヌギ林での争いはスズメバチがカブトムシに圧勝!
カブトムシの生態を研究する山口大学講師の小島渉さんは、2022年8月の早朝5時ごろ、山口県内のクヌギ林で樹液をなめていたカブトムシの集団と、そこへ飛んできたオオスズメバチの群れが争う場面に遭遇した
観察を続けると、オオスズメバチはカブトムシのあしにかみつき、投げ落とすような行動をして、数分でそこにいたカブトムシ十数匹をすべて樹液の出ているところ(樹液場)から追い払ってしまった
こうした争いは、この日を含め、3日観察したすべてで見られ、いずれもオオスズメバチの圧勝だった
小島さんはこれまでに、昼間に両者が出合って小競り合いを起こす場面は何回か見たことがあった
でも、ここまで徹底的にオオスズメバチがカブトムシを追い払うのを見たのは初めてだった
「早朝に観察する人は少ないし、追い払いは数分で終わるので、これまでオオスズメバチが圧勝する争いに誰も気づかなかったのかもしれません」(小島さん、以下同)
カブトムシは夜になるとクヌギ林に集まってくる
幹から出る樹液をなめるためだ
樹液場にはほかの昆虫も集まってくる
その中でも手ごわいのが、鋭い大アゴを持つオオスズメバチだと知られていたが、カブトムシは夜行性、オオスズメバチは昼行性なので、昼の樹液場ではオオスズメバチが最強、夜の樹液場ではカブトムシが最強といわれてきた
今回の発見は、そんな常識に疑問を投げかけるものだ
■カブトムシが夜行性なのはスズメバチのいる昼を避けるため!?
小島さんには、ここ数年の研究を通して、すでに、カブトムシは完全な夜行性ではないことが見えてきていたという
そこで、こんな疑問がわいてきた
「オオスズメバチがいない状況をつくりだしたら、カブトムシはいつまで樹液場にいつづけるのだろうか?」
この疑問に答えを出すため、スズメバチよけのスプレーを使って、飛んできたオオスズメバチが樹液場に降りられないようにした
すると半分以上のカブトムシが、少なくとも昼ぐらいまで樹液場にとどまって、樹液をなめ続けることが確かめられた
「カブトムシは、状況によっては明るくなっても活動を続けることがわかりました。夜が明けてから昼までの活動は、オオスズメバチに妨げられている可能性があります。それにより、カブトムシは本来の性質以上に夜行性が強いと見られていたのかもしれません。動物は自分の意思で、夜行性か昼行性を決めていると思われがちです。しかし、今回観察したカブトムシは、本当は昼まで樹液場で活動していたいのに、無理やり追い出されていたように思われます。競争者であるオオスズメバチの影響によって活動時間が変化しているという点に、私は強く興味をひかれました」
ただし、今回の結果から直ちに、スズメバチがカブトムシより強いと言い切れるわけではない
「こうした現象は特殊な環境・状況でしか起こらない可能性もあります。いくつかある仮説の一つは、今回観察した樹液場をつくったのがオオスズメバチだったというケースです。樹液場のできかたはさまざまですが、まれにオオスズメバチが大アゴで木をかじってつくることがあるんです。今回観察したのはそんな樹液場で、ハチが朝来てみたらカブトムシがいたので、これは許せないと力ずくで追い払ったのかもしれません」
小島さんは今後、同じ現象がほかの場所でも起こっているのかどうか、どんな条件でこういう現象が起こるのかを詳しく調べたいと考えている
結びに、みんなへのメッセージも伝えておこう
「身近なカブトムシにも、まだわかっていないことがたくさんあります。これまで正しいと思われてきたことが間違いだったということも珍しくありません。カブトムシの生態は、君たちの自由研究が新発見につながることもあるので、興味がわいたらぜひ、挑戦してみてください」
〇『不思議だらけ カブトムシ図鑑』(小島 渉/著 じゅえき太郎/絵 彩図社 1100円)
小島さんが書いたカブトムシの本
カブトムシを狙う天敵やオスのけんかの意外なルール、サナギが振動する理由、幼虫が互いに引き寄せ合う謎など、大人向けでも、やさしく書かれているから、カブトムシが好きならぜひ読んでみよう!
(この記事は、AERAdot.の記事で作りました)
不思議だらけ カブトムシ図鑑 単行本
カブトムシは大人気のおなじみの昆虫だが、生態など謎も多い
カブトムシ研究家の筆者がその生態の謎などを分かりやすく解説